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浄土真宗本願寺派


住職の池田行信です。
大江健三郎の「一番大切なもの」     2014年 07月 22日
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 『御堂さん』(2014年8月号)の「巻頭インタビュー」に、「大江健三郎の『一番大切なもの』」が掲載されています。
 憲法・原発の問題についても発言されており、大変考えさせられる文章です。是非、原文を手に取ってご一読くださいませ。
 以下、憲法・原発の発言箇所のみですが、ご紹介します。聞き手は菅純和編集長です。

(前略)
 民主主義に反する

菅 大きな時代の変わり目を、身を持って体験されたからですね。

大江 ところが、今の内閣になって、特に今年になってから、戦争が終わって僕が信じたものとは、すっかり違う方向に向かっているように思うんです。民主主義とは違った政治体制であり、民主主義の一番基本であり、市民の声を聞こうとしないのです。

菅 確かに、今年になってから、その流れが顕著になったように思います。

大江 市民の声よりも、政府の決定権で国を指導していくことが、これからの政治だと思っているようですが、日本の政治がその方向に行ってしまうと、国際的に言えば、まずアジアで孤立するでしょう。日本の国内で言うと、本当に原発の事故を反省して、もう原発はやらないと、事故の当初、国民の意思として皆が考えたことを無視して、原発を再稼働させようとしているんです。

(中略)

菅 戦争を引き起こすかも知れない危険な方向に向かわないようにするには、何をしたらいいとお考えですか。

大江 今、全国にある平和に向けての市民運動を大きくして、集団的自衛権を日本は獲得しないこと、憲法を守っていくことを、日本人は考えているのだということを、そして市民たちは、東京でも大阪でも、各地でその運動をしているのだということを、中国に示すことです。韓国にも北朝鮮にも、アメリカにも示すことです。特にアメリカは、政府とはまた別に市民運動に大きな関心を持っていますから。

菅 憲法なんですが、永久に戦争を放棄することを明記した、平和憲法が発布された当時とは、時代も状況も変わり、今の憲法に対する日本人の感情も変化しているという意見が、段々と大きくなってきています。

大江 戦争直後に感じた開放感と決意、つまり希望を持ち続けて、実際に、その憲法を七十年守ってきたんですよ。あのときの決意が守られているという証拠が、憲法が守られてきたということなんです。どうして、日本人の感情でなくなったと言えるのでしょう。

菅 現に憲法の下で、七十年間、戦争をせずにきたではないかという事実があるんですね。

 原発に安全はない

菅 感情の変化ということで言うと、あの三月十一日からわずか三年なんですが、原発に対する考え方も、当初の思いが風化してきてはいないでしょうか。

大江 原発が動かないままでは、電力を大量に消費している、日本の経済も、豊かな生活も、破壊されてしまうぞという宣伝は、間違ってます。現に原発が停止しているから、家庭生活が困っていることもないし、産業が停滞したこともない。だからそれを続けていけばいいのに、なぜ今の日本人が、再稼働という間違った方針を、新しい態度としなければならないのかということです。

菅 現に七十年間、戦争をしてこなかったということと共通するんですね。現実に原発が動いていなくても、困ることはないと証明されているのだから、それを続けていけばいいということですね。

大江 事実として、平和主義の憲法を守っているんです。そして事実として、福島の事故の直後に決意した、どんなに遅くとも三十年、僕はもっと早くと思いますが、それまでに確実に原発が廃止されるようにという思いを、守り続ければいいんです。福島の人たちの悲惨さを、それを二度と起こさせないという思いは、広島と長崎の経験を二度とはさせないという思いとは、同じ重さなんです。広島と長崎を二度と繰り返さないということは、僕たちは守り抜いています。それを将来につないでいくことは難しいことではありません。(以下略)
by jigan-ji | 2014-07-22 01:02 | つれづれ記
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