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浄土真宗本願寺派


住職の池田行信です。
正信偈講読[145]     2015年 09月 18日
 補遺[97] 第一編 序論  二 なぜ『正信念仏偈』を作ったのか

 正信偈講読[2](2013年6月4日)を補足します。

 二 なぜ『正信念仏偈』を作ったのか
 なぜ『正信念仏偈』を作ったのでしょうか。その理由を『正信念仏偈』の前にある、いわゆる「偈前の文」には、「ここをもつて知恩報徳のために宗師(曇鸞)の釈を披(ひら)きたるにのたまはく、(中略)しかれば大聖(釈尊)の真言に帰し、大祖の解釈に閲して、仏恩の深遠なるを信知して、正信念仏偈を作りていはく」(註釈版二〇二~二〇三頁)と述べています。
 すなわち、曇鸞の『論註』の文を引用し「知恩報徳」と「乞加神力」(仏のすぐれた力を乞(こ)う)の意を述べて、釈尊の真実なる教えに帰し、七高僧の論釈を閲覧して、仏恩の深いことを信じ喜んで、『正信念仏偈』を作ったというわけです。
 また、『教行信証』を『本典』『広文類』『広本』というのに対して、『略典』『略文類』『略本』といわれる『浄土文類聚鈔』があります。その『浄土文類聚鈔』にも、ほとんど『正信念仏偈』と同内容からなる『念仏正信偈』(「文類偈」ともいう)があり、その「偈前の文」にも『論註』の文を引いて、「仏恩の深重なることを信知して、「念仏正信偈」を作りていはく」(註釈版四八五頁)と述べています。
 恵然(一六九三~一七六四)は「自利利他の為」「知恩報徳の為」「真宗伝来を顕す為」との「旧説」を紹介し(『會鈔』二五一頁)、仰誓(一七二一~一七九四)は「造意ただ報恩にあり」(『夏爐』七三頁)と述べています。

 『正信念仏偈』は『教行信証』「行文類」末尾に置かれた偈文です。『教行信証』は次のような構成になっています。
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 「総序」(註釈版一三一頁)は、『教行信証』の序分です。
 「教文類(教巻)」(註釈版一三四頁以下)は、真実の教は『大無量寿経』(註釈版三頁以下)であることが明かされます。
 「行文類(行巻)」(註釈版一四〇頁以下)は、「大行とはすなはち無礙光如来の名を称するなり」と、南無阿弥陀仏と称えることが行であると明かされます。そしてこの「行文類」の最後(註釈版二〇三頁以下)にあるのが『正信念仏偈』です。
 「信文類(信巻)」(註釈版二〇九頁以下)には、「別序」(註釈版二〇九頁)という序が置かれており、さらに「信文類」は本末に分かれています。こうしたことから、かつて『教行信証』の「信文類」は、他の巻とは別に撰述されたのではないかという「信巻別撰説」という主張もありました(『教行信証撰述の研究』)。「信文類」本においては、真実信心は第十八願に根拠するものであることが明かされます。「信巻」末においては、真実信心によって救われる人間とは、どのような人間であるかなどが議論されています。
 「証文類(証巻)」(註釈版三〇六頁以下)は、私たちが真実信心をえることによって、どのようなさとりをえるかについて明かされます。
 「真仏土文類(真仏土巻)」(註釈版三三六頁以下)は、私たちが往生する阿弥陀仏の浄土について明かされます。
 「化身土文類(化身土巻)」(註釈版三七四頁以下)は、本末からなりますが、「化身土文類」本(註釈版三七五頁以下)は権仮の教(聖道門と浄土門内の方便教である要門、真門)について明かされ、「化身土文類」末(註釈版四二九頁以下)は邪偽の教(仏教以外の外道)について明かされます。
 最後の「後序」(註釈版四七一頁以下)は、『教行信証』の結びの文です。

 仏教は教(教法)・行(行業)・証(証果)の三法組織からなります。仏教の行道を、教・行・証の三法組織で理解するのは『法華玄義』によるもので、天台の教学ではこの概念によって行道を明かしたといわれます。『顕浄土真実教行証文類』は、正しく教・行・証の三法組織によった書名になっています。
 教とは釈尊の説かれた経典に示される教えです。その経典(教)によって修行(行)してさとり(証)を開くのが仏教です。
 親鸞は、真実の教を『大無量寿経』(註釈版一三五頁)と明かし、その教にもとづく修行について「行文類」で論じました。「行文類」偈前の文には「おほよそ誓願について真実の行信あり、また方便の行信あり。その真実の行の願は、諸仏称名の願(第十七願)なり。その真実の信の願は、至心信楽の願(第十八願)なり。これすなはち選択本願の行信なり。その機はすなはち一切善悪大小凡愚なり。往生はすなはち難思議往生なり。仏土はすなはち報仏・報土なり。これすなはち誓願不可思議一実真如海なり。『大無量寿経』の宗致、他力真宗の正意なり。」(註釈版二〇二)と誓願・行・信・機・往生・仏土について明かし、その「方便の行信」については「化身土文類」(註釈版三七四頁以下)で論じ、その「真実の行信」にあたる七高僧の「行」の理解について論じた「行文類」の巻尾に、七高僧を讃えて『正信念仏偈』を置きました。
by jigan-ji | 2015-09-18 01:02 | 聖教講読
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